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肥満に関する遺伝子のはたらき

水を飲んでも太る ・・・ 感じ ・・・

生まれつき、燃費の良い(太りやすい)体質があります。省燃費型では、1日300Kcal以上の基礎代謝を節約できます。食糧難の時代では、カロリーを節約できる体質は有利でした。しかし、現代の食事環境下ではリスクとなります。 
マクドナルド・ハンバーガーは、251Kcalです。ハンバーガーを我慢して水だけ飲んでも、300Kcalの帳尻には合いません。節約されたカロリーは、脂肪として蓄えられていきます。水だけ飲んでも、痩せない理由の一つは、痩せにくい体質/遺伝子パターンにあります。

太りやすさ と 体質

私たちは、食物から取り込んだエネルギーを、運動などの活動で利用しています。では、寝ている時はエネルギーを消費しているのでしょうか?
実は 睡眠時でも、体温維持、心臓・呼吸などにエネルギーを消費しています。この安静時の生体維持に必要なエネルギーを、基礎代謝と呼んでいます。食事から摂取したエネルギーは、基礎代謝や運動として、個体の生活維持のために消費されます。 
最近、特定の遺伝子が、基礎代謝の調節を営んでいることが判ってきました。基礎代謝が高まると、無駄にカロリーを消費します。つまり、体脂肪が減ります。逆に、基礎代謝が低下すると、カロリーの浪費を抑制します。
基礎代謝が少ない人は、省エネタイプであり、非常に太りやすくなります。

節約遺伝子

体型・代謝に関係する遺伝子は、現在100種類近く確認されています。遺伝子解析は研究室レベルの対象ですが、いくつかの遺伝子は簡単に検査できます。そのなかでも、体型に影響の強いと推測される下記3因子は、自宅で気軽に検査が可能となっています。

それぞれの遺伝子には通常型と変異型があります。さらに、変異型は2種類に分類され、遺伝子ペアが2対とも変異するホモタイプと、1対のみ変異するヘテロタイプがあります。ホモタイプの方が、ヘテロタイプより変異型の特徴が強く表現されます。

遺伝子の組み合わせによって、1日あたり300Kcal節約できるタイプから、170Kcal/日の浪費型まで、約30パターンに分類可能です。

 300Kcalの節約といっても、イメージできないと思います。利用されないエネルギーは、最終的に脂肪として蓄えられていきます。脂肪1gは9Kcalですから、300Kcalを節約すると、33gの脂肪が余ることになります。太りやすい遺伝子パターンでは、1ヶ月 1Kgの脂肪が余剰となります。

少し乱暴な表現かもしれませんが、基礎代謝が300Kcal節約できる人にとっては、水と空気も300Kcalのハンディキャップです。

検査キット

肥満遺伝子に関して簡易検査が可能となりました。体の細胞から遺伝子を解析して、節約遺伝子の有無を調べていきます。今までの遺伝子検査は、血液を材料として行われてきました。最近になって”口腔粘膜・唾液”や”爪”を利用した検査キットも発売されています。 

血液検査(採血)は、病院で行います。非常に安定性のある結果を得ることができ、3種以外の遺伝子検査も複合的に判断することができます。
コストは、他の検査に比べ高額で、5~10万円くらいかかります。 

口腔粘膜・唾液や爪を利用した検査は、自宅で気軽に実施できます。検査キットは、薬局やインターネットで入手可能です。
同包の封筒で検査会社に直接郵送すると、個人宛てにレポートが返送されてきます。
気になるコストですが、口腔キットでは 3万円台(遺伝子3種)、爪キットでは 1万円台(遺伝子3種)です。

節約遺伝子 各論
β3アドレナリンレセプター遺伝子

(肥満を誘発するサブタイプがあります) 

血中アドレナリンは、交感神経系活性時に 主に副腎皮質から血中に放出され、各臓器の細胞表面にあるアドレナリンレセプターを刺激します。アドレナリンレセプター(AR)は、心臓や気管支など体中に分布しており、脂肪細胞の表面にも存在します。アドレナリンが脂肪細胞のARに作用すると、貯蔵脂肪の分解と熱産生を亢進させます。

ARは3種に分類されますが、β3ARは 特に脂肪細胞に多く分布します。このβ3ARは、野生型(WT)と変異型(Trp64Arg)が知られています(遺伝子多型)。
同レベルのアドレナリン刺激であっても、野生型の方が脂肪を多く分解します(やせる傾向)。
逆に変異型の方が脂肪消費が低いことになります(太る傾向)。
両者を比較すると、【野生型】に比べて、【変異型ホモタイプ】は1日約215Kcal、【変異型へテロタイプ】は1日170Kcalの基礎代謝量に差が生じます。

日本人の約39%(30%~40%)は、変異型であると報告されています。 

UCP1遺伝子(uncoupling protein 1)

(肥満を誘発するサブタイプがあります) 

私たち ヒトでは、体温調節機構によって36℃台に体温が調節されています。この熱源の燃料は、脂肪細胞中の脂肪です。脂肪を熱に変える場所は、ミトコンドリアです。脂肪細胞内に蓄積された脂肪を、ミトコンドリア内で静かに燃焼(酸化的リン酸化)させることにより、体温を維持しています。
この燃焼に必要な蛋白ファミリーをUCP(脱共役蛋白)とよんでいます。UCPは、5種類確認されており、肥満に大きく関連するのはUCP1と呼ばれる蛋白質です。
ミトコンドリアは全身の細胞に分布しますが、UCP1は熱代謝の高い脂肪細胞に偏在しています。 

このUCP1にも遺伝子多型が認められています。変異型(Met229Leu)においては、基礎代謝量が低下します(太る傾向)。
両者を比較すると、【正常タイプ】に比べて、【変異ホモタイプ】は1日約85Kcal、【変異へテロタイプ】は1日45Kcalの基礎代謝量に差が生じます。

日本人の約16%は、変異型であると報告されています。 

β2アドレナリンレセプター遺伝子

(肥満を抑制するサブタイプがあります) 

β2ARは、心臓や気管支、脂肪細胞の表面(細胞膜)に分布します。β2ARの刺激により、気管支拡張や心臓拍出量増加など交感神経系作用が亢進します。このエネルギー需要をサポートするために、脂肪細胞の脂肪代謝にも関与し、エネルギー供給を増加させます。 

β2ARの遺伝子変異型(Arg16Gly)では、代謝効率が亢進します(やせる傾向)。両者を比較すると、【正常タイプ】に比べて、【変異ホモタイプ】は1日約170Kcal、【変異へテロタイプ】は1日40Kcalの基礎代謝量に差が生じます。

日本人の約16%は、変異型であると報告されています。

余談ですが・・・

このページに、栄養士の方から非常に強いクレームが寄せられました。抗議の対象は、このページのエキセントリックな文章表現だと思われます。記載内容に関して、不都合を指摘されたわけではありません。

栄養学的には、必要カロリーを体重や身長、年齢、運動量で計算します。しかし、画一的な計算では説明できない個人差も現存します。生物学的個体差を、従来の栄養学は黙殺してきました。今までは、”ばらつき”を評価する方法が無かったために、説明できないバリエーションに対して”栄養学”が閉口していたという状況でした。

分子生物学や遺伝子解析によって、基礎代謝量のばらつきを医学的に評価できるようになりました。この応用として、マイナス300~プラス170Kcal/日(成人)に及ぶ基礎代謝量の不公平を、数量的に評価できるのです。

栄養指導では、1,400~2,800Kcal/日(成人)に設定する場合が多いと思われます。しかし、基礎代謝のバリエーションは300Kcalであり、お茶碗 1杯半のご飯に相当します。1日代謝量に対して、1~2割の誤差を無視したカロリー計算では、違和感を感じるのも無理ありません。”水を飲んでも太る”という表現は、栄養学的に誤りですが、空気を食べても痩せない不公平は遺伝子学的な現実です。

ふたばクリニック 広瀬久人 (2006.09.01)