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2つの肺炎球菌ワクチン

2010年2月に、小児用肺炎球菌ワクチン・プレベナー(PREVENAR/Wyeth)が、日本国内で販売開始となりました。
従来から、ニューモバックス(PNEUMOVAX/MERCK&CO.,INC)が成人に使用されています。今後は、肺炎球菌感染症に対して、成人だけではなく、乳幼児も予防接種が可能となります。この ”2つの肺炎球菌ワクチン” に関して、コラムを設けました。

各ワクチンに関しては、下記 リンク先をご参照下さい。

プレベナー/コンジュゲートワクチン(結合型ワクチン)

ニューモバックス/ポリサッカライドワクチン(多糖体ワクチン)

予防接種・ワクチンの基本

病原体に感染した場合、初感染よりも 再感染のほうが症状が軽くなります。これは、前回感染時に免疫を獲得しているからです。
ある病原体に被爆した場合、病原体の構造の一部分を、私たちの免疫システムは異物(抗原)として認識します。この抗原に対して、抗体という物質をつくることで、再感染時に速やかな感染防御をおこなっています。
感染と同じ条件を人工的に作ることにより、免疫を誘導する方法が予防接種です。弱毒化した病原体や、病原体の構造の一部分を、人体に接種することにより、あらかじめ免疫状態を誘導することが可能となります。

ワクチン製剤の原料となる”抗原”

免疫システムは、病原生物の全体を認識しているわけではありません。病原体の一部分を異物抗原として認識しています。たとえば、インフルエンザウイルスには、HAとよばれるウイルス表面の突起があり、このHA部分が抗原性の一部を担当します。インフルエンザワクチンは、このHA部分を利用しています。肺炎球菌の場合は、細菌表面にある莢膜の構造/多糖体(ポリサッカライド)を、抗原として認識します。肺炎球菌に対抗する予防接種は、莢膜の多糖体を原料として、ワクチン製剤が作られます。

多糖体抗原の問題点

免疫システムが、抗原として認識しやすい物質と、そうでない物質があります。蛋白質のように、”高分子量”で、”複雑な構造”を持っていると、免疫システムは反応しやすく、抗体産生に有利です。
しかし、多糖体は、単純な糖構造の連続であり、免疫システムは反応しにくい物質です。免疫システムの未熟な乳幼児では、抗体が獲得できません。
さらに、多糖体抗原は反復投与してもブースター効果が得られません。

”乳幼児では充分な抗体が獲得できないこと”

”ブースター効果がないこと”

この問題点の原因は、多糖体の単調な構造にあります。免疫システムに有利なように、多糖体抗原に複雑な構造を持つ物質を加えることにより、乳幼児に対しても免疫誘導が可能となりました。

多糖体の抗原性賦活化のために

多糖体を単独で抗原暴露しても、免疫システムの未熟な乳幼児には有効ではありません。しかし、蛋白質に結合すると、抗原性が高まり、ブースター(追加接種)も可能になります。
実際には、ジフテリア由来の蛋白質を利用します。無毒化されたジフテリア毒素(CRM197)に、肺炎球菌莢膜多糖体を結合させることにより、結合型ワクチン・プレベナーは製造されています。クリスマスツリーように、多糖体で ジフテリア毒素をデコレートし、乳幼児に対しても有効なワクチン製剤となりました。
結合型の抗原を利用することにより、多糖体の抗原性が高まります。結果として、使用する抗原量が少なくてすみます。多糖体ワクチンにくらべ、結合型ワクチンのほうが、投与抗原量を減らすことも可能です。(下記参照)

プレベナー 13  各型(13価)あたり 2.2~4.4μgずつ 総量  30.8μg 
ニューモバックス  各型(23価)あたり  25μgずつ  総量 575μg 

キャリア蛋白/多糖体ワクチンの工夫】 結合型ワクチンに関して、コラムを設けております。ご参照ください。

蛇足ですが・・・アクトヒブも結合型ワクチンです。

乳幼児髄膜炎の原因として、HIb(インフルエンザ菌b型)も重要です。ヒブワクチンは、HIbの表面にある多糖体抗原を原料にしています。アクトヒブ(ヒブワクチン)の場合、HIb多糖体を破傷風トキソイドに結合することにより、乳幼児への有効性を高めています。

乳幼児を、肺炎球菌性髄膜炎から守るためには

プレベナー13は、乳幼児の肺炎球菌性髄膜炎を予防するために開発されました。乳幼児 肺炎球菌性髄膜炎の好発年齢は、5歳未満です。特に 2歳以下のお子様にとって、髄膜炎は極めて重要な疾患です。
髄膜とは、脳の表面を包んでいる膜です。髄膜炎に罹患すると脳障害の可能性が高まります。髄膜炎を起こした場合、迅速な診断と治療が必要ですが、そもそも髄膜炎は起こしてはならない病気です。お子さまの将来を考えた上で、可能な限り予防すべき疾患です。

プレベナー13とニューモバックス

成長・加齢とともに、肺炎球菌感染症の主病変は、変化します。
5歳以上のお子様の場合、髄膜炎発症リスクは少なくなります。成長とともに髄膜炎リスクが減るかわりに、学童期では 咽頭・喉頭炎、中耳炎が重要です。
成人では、肺炎球菌感染症で最も多いものは、二次感染としての肺炎です。特に高齢者では致死的肺炎の原因として、もっとも頻度の高い細菌です。
プレベナー13は、主に乳幼児の肺炎球菌性髄膜炎をターゲットに開発されたワクチンであり、利用する莢膜型は13種類です。
ニューモバックスは、成人・高齢者の二次性肺炎をターゲットにしていますので、対応する莢膜型は、23種類です。

両製剤を比較して、下記の表にまとめてみました。

肺炎球菌莢膜型 対象年齢・接種回数

プレベナー13 1,3,4,5,6A,6B,7F,9V,14,18C,19A,19F,23F 2ヶ月~4歳

接種回数
 1回~4回
接種開始年齢により、接種回数が異なります。


ニューモバックス 6B7F,8,9N,9V
10A,11A,12F,14,15B,18C
19A19F,20,22F,23F,33F

ピンク色の莢膜型は、プレベナーと共通

2歳以上で、肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い者

接種回数 1回
5年を経過した段階で、追加接種が認められています。


ご注意

プレベナー13の接種対象年齢は、2か月以上 5歳未満となっています。

生後2ヶ月以上2歳未満のお子様は、免疫誘導効果の高いプレベナーの13接種を、是非お勧めいたします。この年齢は、髄膜炎を合併しやすく、プレベナーによる予防が最も重要となります。

2歳以上のお子様は、ニューモバックスも使用可能ですが、5歳未満の場合のニューモバックスはお勧めいたしません。

また、肺炎球菌ワクチンを接種しているにもかかわらず、肺炎球菌性感染症を反復するお子様は、血液検査(肺炎球菌・特異的IgG)をお勧めいたします。
充分な抗体力価を認めない場合は、前回と異なるタイプの肺炎球菌ワクチン接種により、反復する肺炎球菌感染症を予防できる可能性もあります。

ふたばクリニック 広瀬久人 (2010.02.10記、2014.06.10追記)